瓢箪日記

備忘録

村上隆の展覧会2つ

村上隆五百羅漢図展、森美術館、2015.10.31-2016.3.6

村上隆スーパーフラット・コレクションー蕭白魯山人からキーファーまでー

 横浜美術館、2016.1.30-4.3

 

せっかくなら2つとも見たいところ。五百羅漢図展は日本初公開の全長100メートル以上という超大作。指示書など制作背景の資料を合わせて展示する。だけではなく、小品を含む作品をおおまかなテーマごとに一覧でき、辻惟雄氏との日本美術史を巡る対話と一種のコラボレーション(『熱闘!日本美術史』新潮社、2014年)を見せる。自身の制作を史上に位置づけてしまう戦略の巧みさ。村上氏のコレクションからはその脳内イメージをかいま見る事ができ、創作の秘密の一端がうかがわれる・・・かと思いきや、あまりに多量の作品がごっちゃに提示されていて混乱する。敢えてそう見えるように計算されているのかもしれないと勘ぐる。百年後の人々は、これが21世紀前半の日本を代表する美術だと見るのだろうなあ。

 

ピカソ、天才の秘密

愛知県美術館、2016.1.3-3.21

 

意外にも、キュビズム以前のピカソの「青の時代」と「バラ色の時代」に焦点を当てた展覧会は日本で初めてらしい。少年時代の才能があふれでるようなデッサン類をまとめて見ることができるのも貴重な機会。「青の時代」の色調豊かなブルーは実際に作品を見ないと実感できまい。「バラ色の時代」の表情豊かな線描も。ピカソの生涯を丁寧に説明しているが、それでも画風展開の必然性はよく分からないのであった。海外からの借用品もあるが、こうして見ると国内にもピカソの作品は多いのだな。

どうでもいい話。作品リストには「ピカソ、天才への道程すごろく」がついていて「自分の洗礼名が長すぎて覚えられない。1回休み」など小ネタが面白い。編集小野寺奈津、デザイン副田一穂、って学芸員が自分で描いたのか。

もう一つどうでもいい話。会期中に美大・芸大の卒業・修了作品展示が階上のギャラリーで開かれている。ありきたりの意見だが、学生諸君はピカソ展必見である。

名古屋で西洋美術を

・聖なる風景 ルネサンスからルオーまで

 ヤマザキマザック美術館、2015.11.20-2016.2.28

ボストン美術館 ヴェネツィア展 魅惑の都市の500年

 名古屋ボストン美術館、2015.9.19-2016.2.21

 

名古屋には西洋美術の優れたコレクションと展示でいつも期待を裏切らない美術館が3つある。それがヤマザキマザック名古屋ボストン美術館、そして愛知県美術館。巡回展も多いが、このたび前2館で開催中の展覧会はぜひセットで鑑賞したい。

聖なる風景は岡崎市美術博物館と三重県立美術館から優品を借りての企画展。17世紀バロック絵画を中心にルオーの版画連作を組み合わせる異色の宗教画展。キリストの生涯や殉教者など、キリスト教画題の勉強にもなる。ヤマザキマザックは日本では珍しいオールドマスターの収蔵品を、ホワイトキューブではない欧風の展示空間を再現して見せてくれる貴重な美術館。東京では八王子駅からバス20分の、東京富士美術館の常設展示室が同様のコンセプトで希少。

ヴェネツィア展は、単に名品展ではない。導入部の地図と古写真、エッチングによる風景からして、まるでヴェネツィアを旅するかのような優れた企画展。肖像画、宗教画とつづく構成は、ヴェネツィア絵画の特徴を都市と大教会堂など建物のあり方や時代背景とからめて自然に見せることに成功している。ティツィアーノ、ティントレット、ヴェロネーゼらの作品を配置しながら、油彩画を十分に用意できない部分にはティツィアーノ原画の版画を補う工夫も。主要産業であるガラス、織物から服飾デザインまで押さえる。最終章はヴェネツィアの美しさを描いた印象派、ホイッスラー、現代の写真までをカバーする。

いずれも生きた西洋美術史のテーマが盛りだくさんの好企画だ。

春画展

細見美術館2016.2.6-4.10(前期-3.6、後期3.8-)

 

東京・永青文庫で記録的入場者を獲得した話題の展覧会の京都展。永青文庫の建物がもつ雰囲気とは異なるが、小さな展示室を重ねる親密空間が特徴の細見美術館は、春画を「明るく」鑑賞するのにふさわしい。巻物を長く広げることができないのはもどかしいが、少ししか開くことができないからこそ秘画として見ることができる。会場配布の「作品リスト」に図録番号や京都展会場限定作品を示してくれているのは使い勝手がよい、が京都展限定出品作は図録に掲載がない。

ちなみに展覧会ちらしや図録がスタイリッシュなデザインを採用しているおかげで、春画が受け入れやすいものとして広報されている。キャッチコピーの「世界が、先に驚いた。」もいわゆる外部評価に弱い日本というステレオタイプを逆手にとり、現代日本において抵抗を少なくして展覧会を開催することに成功していると思う。

ジョルジョ・モランディ 終わりなき変奏

東京ステーションギャラリー、2016.2.20-4.10

 

作品リストにずらりと「静物」が並ぶ、特定モチーフの繰り返しが特徴のモランディ展。日本人の感性に合うのか、意外と混雑している。こちらに何かを気づかせるよう内省させる力がモランディ作品にはあり、フェルメールのような静かさや勤勉さが魅力の一つなのだろう。会場内のパネルの文章を作品リストと配布しているのは有り難い。が、セクションごとの区切りと解説が、他のセクションとどう違うのかが今ひとつよく分からない。さすがモランディ。ただこうしてまとめて見ることができなければ、モランディの良さや目指そうとしたことは見えてこない。油彩がメインだが、水彩が意外と良い。学生時代に訪れたボローニャは陰影深い街だった。

東京ステーションギャラリーの赤煉瓦壁には合う作品と合わない作品がある。何年も前のジェームズ・アンソール展はぴったりだったが、モランディは今ひとつしっくりこない。

ゆかいな若冲・めでたい大観ーHAPPYな日本美術ー

特別展 伊藤若冲 生誕300年記念

山種美術館2016.1.3-3.6

 

鶴亀、松竹梅、七福神、蓬莱山に富士山など、吉祥テーマと干支を集めた山種美術館の正月展示。伊藤若冲生誕300年となる2016年、若冲を冠する展覧会の第一弾でもある。「群鶏図屏風」、「河豚と蛙の相撲図」など若冲作品の多くは個人所蔵のものを出陳する。若冲水墨画は筆の勢いを活かすものが多いが、蛙の腕はよく見ると数本のふるえる線が見られる。山種美術館所蔵の若冲筆「伏見人形図」は顔料を用いて、陶器人形の質感を紙の上に表わそうと工夫している。この良さは図版では伝わりにくいので、ぜひ実物で確認したいところ。山種美術館の展示ケースは作品と鑑賞者の距離が近いので、細部までじっくり見ることができてありがたい。

琳派降臨 近世・近代・現代の「琳派コード」を巡って

京都市美術館2016.1.14-2.14

 

琳派400年記念祭の掉尾を飾る展覧会。2015年秋に京都国立博物館京都国立近代美術館で開催された二つの琳派展ー前者は近世まで、後者は近代以降ーを踏まえての企画構成や作品の出品交渉は、様々に困難であったと思われる。「自然」「都市」「抽象」というテーマ設定からもやりにくさを感じた。本展の見所は、近世から近代へと琳派をつなぐ神坂雪佳の作品をまとめて見ることができる点にある。掛軸などの絵画作品と工芸図案、雪佳の図案にもとづき弟祐吉が制作した「帰農之図硯箱」などの工芸品から雪佳の活動の幅広さを知ることができる。京都画壇から現代の琳派にいたる後半は、東京国立近代美術館で2004年に開催された「琳派RIMPA」展への批評、「なぜこの作品が入り、この作品が入らないのか」を蒸し返すように思った。「琳派コード」はつきつめれば「日本美術の特質」になるのだろうか。